PTSDが形成されるメカニズムの一端がわかったので紹介しておきます。
ChatGPTに内容を要約させると以下のようになりました。
急性ストレスによる一般化された恐怖のメカニズムについて
はじめに
恐怖は、生存に欠かせない重要な感情です。例えば、危険を察知して逃げるための行動を引き起こします。しかし、急性ストレス(短期間に強いストレスを受けること)によって、無害な状況に対しても過剰な恐怖反応が生じることがあります。これを「一般化された恐怖」と呼びます。この研究では、マウスを使って一般化された恐怖がどのようにして生じるのか、そのメカニズムを調べました。
実験の概要
この研究では、マウスに電気ショックを与えて恐怖反応を引き起こし、その後の脳内の変化を調べました。特に、神経伝達物質の変化に注目しました。
実験の詳細
電気ショックと恐怖反応:
- マウスに弱い電気ショック(0.5mA、1秒)と強い電気ショック(1.5mA、2秒)を与えました。
- その後、マウスがどのくらい恐怖を感じているかを「凍りつき行動」(動かなくなること)で測定しました。
- 弱いショックを受けたマウスは、ショックを受けた場所でのみ恐怖反応を示しました(条件づけられた恐怖)。
- 強いショックを受けたマウスは、新しい場所でも恐怖反応を示しました(一般化された恐怖)。
脳内の変化:
- 脳の中の特定の神経細胞(セロトニンを分泌する神経細胞)が、普段はグルタミン酸を分泌しているのに対し、強いショックを受けた後はGABA(γ-アミノ酪酸)という別の神経伝達物質を分泌するようになっていました。
- これを「神経伝達物質の切り替え」と呼びます。
結果と考察
- 強いショックを受けたマウスでは、グルタミン酸からGABAへの切り替えが見られ、これが一般化された恐怖の原因であることがわかりました。
- また、この神経伝達物質の切り替えは、ストレスホルモンであるコルチコステロンの分泌によって引き起こされることが示されました。
- 抗うつ薬を早期に投与することで、この切り替えを防ぎ、一般化された恐怖を抑えることができました。
結論
この研究は、急性ストレスが一般化された恐怖を引き起こすメカニズムを解明し、抗うつ薬がその予防に有効であることを示しています。これにより、ストレス関連障害の治療に新たな手がかりを提供することが期待されます。
この論文の中に人のデータもあったのでそれも紹介しておきます。
人におけるセロトニン神経細胞の神経ペプチドの割合について
背景
セロトニン(5-HT)神経細胞は、脳の多くの機能に関与する重要な神経細胞です。これらの細胞は、異なる神経伝達物質(グルタミン酸やGABAなど)を同時に放出することがあり、その割合は様々な状況で変化します。特に、急性ストレスやPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような状態では、これらの神経伝達物質の割合に顕著な変化が生じることが示されています。
研究の目的
本研究の目的は、急性ストレスが人のセロトニン神経細胞における神経伝達物質の割合にどのように影響するかを明らかにすることです。
実験方法と結果
サンプル収集:
- PTSD患者と同年代の健康な対照者からの脳の組織サンプルを使用しました。
- これらのサンプルは、NIH NeuroBioBankから提供されました。
免疫染色と定量分析:
- 5-HT、GAD67(GABA合成酵素)、およびVGLUT3(グルタミン酸輸送体)のトリプル染色を行いました。
- 各神経伝達物質を発現する神経細胞の割合を計算しました。
結果:
対照群:
- 23.8 ± 2.4%のセロトニン神経細胞がVGLUT3を共発現していました。
- 6.5 ± 1.1%のセロトニン神経細胞がGAD67を共発現していました。
PTSD患者群:
- VGLUT3を共発現するセロトニン神経細胞の割合が14.0 ± 1.9%に減少しました。
- GAD67を共発現するセロトニン神経細胞の割合が18.2 ± 2.2%に増加しました 。
結論
- PTSD患者では、セロトニン神経細胞の神経伝達物質の割合が顕著に変化しています。
- 特に、グルタミン酸(VGLUT3)の割合が減少し、GABA(GAD67)の割合が増加しています。
- これらの変化は、PTSDの症状の持続的な一般化された恐怖に寄与している可能性があります。
繰り返される恐怖を感じることでセロトニン神経細胞の分泌する神経ペプチドがグルタミン酸からGABA、つまり、神経を刺激するものから抑制するものに変わるということです。それが恐怖反応で活性化されやすい外側視床下部(LH)や扁桃体中心核(CeA)に投射しているわけです。
もう少しかみ砕いていうと、繰り返される強めの恐怖刺激によって、全然別の刺激を受けてもそれを連想させる場合、強い恐怖反応を示すということです。
セロトニン神経細胞は背側縫線核という部位にあるのであるが、そこに入力される刺激が恐怖体験を連想させるような刺激だと恐怖体験と同じような反応を脳に起こすということです。そういう反応を示すセロトニン神経細胞が増えている状態がPTSDの状態であるのかもしれないということです。
そうならないようにあらかじめ抗うつ薬を使っていますが、その点を抽出しておきます。
抗うつ薬の使用タイミングについて
背景
急性ストレスが一般化された恐怖を引き起こすメカニズムを解明する中で、抗うつ薬の効果とその適切な使用タイミングが重要な役割を果たすことが示されています。本研究では、抗うつ薬フルオキセチンが一般化された恐怖に与える影響について調査しました。
実験方法
研究では、フルオキセチン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬、SSRI)をマウスに投与し、その効果を観察しました。具体的には、以下のような手順で実験が行われました:
- マウスに恐怖条件付け(電気ショック)を行いました。
- 恐怖条件付け直後または2週間遅れてから、飲料水にフルオキセチンを混ぜてマウスに投与しました。
- 2週間のフルオキセチン投与後、マウスを異なる環境(context Bとcontext A)でテストし、その後マウスを犠牲にして脳を調査しました。
結果
即時治療の効果:
- 恐怖条件付け直後にフルオキセチンを投与したマウスは、context Aでの凍りつき行動(恐怖反応)が部分的に減少し、context Bでは完全に凍りつき行動が消失しました 。
- 即時治療は、context Bでの探査行動を完全に回復させました 。
遅延治療の効果:
- フルオキセチンの投与を2週間遅らせた場合、凍りつき行動の減少は見られず、神経伝達物質の切り替え(VGLUT3からGAD67へのスイッチ)も防げませんでした 。
神経伝達物質の変化:
- 即時治療は、強いショック後に生じるVGLUT3からGAD67へのスイッチを防ぎました 。
考察
これらの結果は、フルオキセチンの効果が時間依存的であることを示しています。具体的には、急性ストレス後の短期間(この場合は恐怖条件付け直後)にフルオキセチンを投与することで、一般化された恐怖を防ぐことが可能であることが明らかになりました。逆に、治療を遅らせると、神経伝達物質のスイッチを防ぐことができず、一般化された恐怖の発生を抑えることは困難です 。
結論
本研究は、抗うつ薬フルオキセチンが急性ストレス後の一般化された恐怖に対して効果的であるためには、迅速な投与が必要であることを示しています。この知見は、PTSDなどのストレス関連障害の治療において、適切なタイミングでの薬物介入の重要性を強調しています。